単クローン抗体HNK-1により認識されるHNK-1糖鎖は、昆虫から哺乳動物まで広く神経系組織に分布し、しかも時期特異的に発現する糖鎖である。申請者らは既に、HNK-1糖鎖抗原の生合成の律速酵素であるグルクロン酸転移酵素(GlcAT-P、GlcAT-S)cDNAのクローニングに世界に先駆けて成功している。また最初にクローニングしたGlcAT-P遺伝子を欠損したマウスの作成にも成功している。そこで本研究では、以下に2点について実験を行った。 1)GlcAT-P遺伝子欠損マウスの電気生理学的、行動学的解析 既に作成されているGlcAT-P遺伝子欠損マウスを用いて、電気生理学的、行動学的解析を行った結果、本マウスは海馬CA1領域における長期増強(LTP)に障害があることが明らかとなった。また本マウスは空間学習能力が低下していることが水迷路を用いた実験から明らかとなった。 2)第2のグルクロン酸転移酵素遺伝子(GlcAT-S)欠損マウスの作成 GlcAT-P遺伝子欠損マウスを免疫組織化学的に解析したところ、大部分のHNK-1糖鎖の発現は消失しているものの、幾つかの脳の領域において特徴的なHNK-1糖鎖の残存が確認された。残存するHNK-1糖鎖の生合成にはGlcAT-S遺伝子が関与していると考えられたので、GlcAT-S遺伝子欠損マウス作成を試みた。まずのGlcAT-S遺伝子欠損マウス作成のためのターゲッティングベクターを構築した。これをES細胞に導入後、356個のコロニーをPCR法でスクリーニングしたところ、8個の陽性ESクローンが得られた。サザンブロットにより、これら8個のクローンが正しく相同組換えを起こしていることを確認した。
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