無細胞翻訳系によるセレノメチォニン(SeMet)標識を、クラゲ蛍光タンパク質(GFP)および大腸菌ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)をモデルタンパク質として検討した。その結果、いずれのタンパク質も、メチオニン(Met)を用いた通常の合成量に匹敵する量で合成が可能であった。合成したタンパク質中のSeMet置換は、液体クロマトグラフィー質量分析により確認した。全液体クロマトグラムを精査しても、内在性Metによる該当ペプチドを検出できなかったことから、SeMet置換量はほぼ100%に近いことが確認された。また、この過程でSeMet標識タンパク質を、-80℃で6ヶ月間保存してもSeMet基が酸化を受けないことも確認された。 GFPの発色団形成は、通常のメチオニン標識よりもややスローであったが、その蛍光スペクトルはSeMet-GFPとMet-GFP間でよい一致をしめした。この結果は、少なくとも発色団近傍のタンパク質立体構造形成にSeMet標識が何も影響を与えないことを示している。また、DHFRの場合、Met残基の位置が触媒機構上重要なMet20-ループに含まれることから、触媒活性への影響が懸念されたが、これもぼぼ同等の活性を有することが確認された。 これら、モデルタンパク質による標識の検討を終え、X線構造解析に着手しているtRNA修飾酵素のSeMet導入部位検索に利用した。現在、本酵素は3A解像度で構造精密化を行なっている。 よって、無細胞翻訳系により、高効率でSeMet標識が可能であることが確認され、x線結晶構造解析への応用が可能なものと考えている。本研究の一部は、日本生化学会および分子生物学会において発表した。
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