研究概要 |
カブトガニ顆粒細胞のLPSに対する親和性は非常に高く、哺乳類細胞のToll-like受容体を介した応答に必要とされる1000分の1程度の低濃度でも十分に反応する。したがって、カブトガニ顆粒細胞の表面には、Toll-like受容体とは異なる新規のLPS受容体の存在が推定される。そこで現在までに得られていた、種々のカブトガニ生体防御因子群に対するポリクローナルおよびモノクローナル抗体を用いて、FACScanにより固定化した顆粒細胞の表面抗原を検索した。興味深いことに、体液凝固カスケードの開始因子であり、LPSと特異的に結合してプロテアーゼ活性を発現するFactor Cが細胞表面にも存在していることが判明した。Factor Cと固定化したリピドAとの解離定数をBIAcoreにより解析した結果、2.7×10-8 Mと非常に高い親和性を示し、Factor Cが顆粒細胞のLPS認識の初期過程で機能していることが推定された。一方で、脱顆粒反応には、細胞外のMg2+が必須であることや、顆粒細胞を百日咳毒素や細胞内イノシトール代謝の阻害剤で処理すると、LPSによる脱顆粒反応が阻害されることなどから、その反応にG蛋白質共役受容体が関与していることが示唆された。 顆粒細胞のcDNAライブラリーから、G蛋白質共役受容体と推定されるクローンを単離し、塩基配列を決定した。得られたクローンは、NH2-末端領域をコードする配列を欠いていたが、全体的にプロテアーゼ活性化受容体(protease-activated receptor, PAR)との間に約20%のアミノ酸配列類似性を示した。PARは7回膜貫通領域をもつG蛋白質共役受容体であり、血液凝固プロテアーゼであるスロンビンなどによって受容体のNH2-末端から約40残基が切断され、新たに露出したNH2-末端領域がリガンドとなって情報を細胞内に伝達する。カブトガニ体液凝固セリンプロテアーゼであるFactor Cの合成基質に対する活性は、スロンビンと酷似していることから、細胞表面に存在するFactor CとG蛋白質共役受容体の関係が興味深い。Factor Cは体液凝固系のみではなく、細胞表面での異物認識にも関与している可能性がある。
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