研究概要 |
1.昨年度の研究で,アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AAT)の触媒反応過程における三次元エネルギー準位図の形を明らかにした。本年度は引き続き,反応進行の道筋である「底(=自由エネルギー極小点の軌跡)」の部分の成り立ちについて更に詳細な解析を行った。V39F酵素の遊離状態および基質アナログのマレイン酸結合状態の双方において精密な立体構造解析を行った結果,V39F変異は基質結合部位周辺の構造を変化させず,活性部位の蓋の部分のパッキングのみを変化させることが判明した。これによってミハエリス複合体において補酵素シッフ塩基のpK_aが上昇する機構は,昨年度に明らかになったGly38主鎖とTyr225の相互作用に加え,Asn194と基質の水素結合によるPLPとAsn194の水素結合の減弱によるシッフ塩基の振れの部分的解消が関っていること,およびそれぞれの寄与が0.7unit,0.6unitであることが判明した。これにより,AATの触媒反応の道筋を形づくる構造的基盤の主要な部分を解明することが出来た。 2.さらに,いままでほとんど解明されていなかったC5基質とAATの反応を解析した。限られたプロトン化状態を取るAAT-C4基質のミハエリス複合体とは異なり,AAT-C5基質のミハエリス複合体は様々なプロトン化状態が許容されていることが判明した。X線結晶解析の結果,AATとC5基質のMichaelis複合体は開いたコンフォメーションを取り,それに結合したC5基質は伸びたコンフォメーションを取っていることが判明し,これが種々のプロトン化状態を許容していることを説明することができた。さらに閉じたコンフォメーションに近づけるV39L変異によってK_mが3倍に上昇し,k_<cat>は同じ値を示すことを解析するために,今まで用いたプロトン数の座標軸の代わりにコンフォメーションの座標軸を用いる方法を取ったところ,C5基質のミハエリス複合体の開いた構造を不安定化する力が働いていることが示された。これはAATがK_mを犠牲にしてC_5基質に対するk_<cat>値を増大している機構を有することを説明し,三次元自由エネルギー解析が三番目の座標軸を適当に選ぶことによって様々な酵素反応の解析に応用できることを示した。
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