1.リン酸化反応中間体形成時の酵素分子へのATP結合とその分解機構 プロトンポンプ標品におけるリン酸化反応中間体(EP)の生成量とATPの結合量を定常状態にて検討した。その結果、(1)[γ-^<32>P]ATPを用いた酸安定なEPの蓄積量はα鎖1mol当たりEP結合量は0.5molであることが明らかになった。さらにMgCl_2存在下、酵素へのATPの結合は[α-^<32>P]ATPを用いるとα鎖1mol当たり0.5mol検出された。一方、[γ-^<32>P]ATPの場合、1molの結合が検出された。 これらの結果から、EPを形成していない触媒サブユニットはH^+-ATPase反応のサイクル中ATPを結合していることが明らかになった。 (2)ATPの結合におけるATP濃度依存性からリン酸化中間体の生成に必要な濃度は1μMであるのに対し、リン酸化中間体を生成しないサブユニットへのATPの結合は150μMを必要とした。 (3)パルス-チェイス実験から、結合しているATPはEPと並列に加水分解される機構が明らかになった。 2.プロトンポンプの分子観察によるポンプ分子の多量体構造 FITCによってそれぞれのポンプ分子の触媒サブユニット1molに対し1mol化学修飾を施した酵素標品を用いて、可溶化後、全反射蛍光顕微鏡にて観察し、消光過程の時間経過から酵素の多重体度を解析した。 (1)FITC標識した酵素分子の蛍光消光の時間経過から量子的な蛍光消光を確認した。また輝点の初期輝度分布から単量体から4量体の多量体構造が存在することを確認した。 (2)酵素活性をほとんど失ったC12E8による可溶化ポンプは単量体と2量体が主要成分であるのに対し、n-octylglucosideによる可溶化画分はほぼ活性を保持しており、主に2量体と4量体が観察された。 以上の結果からプロトンポンプにおいて、EP : EATPという中間体が存在すること、また活性を発現する最小機能単位は少なくとも2ないし4量体であることが示唆された。
|