tアイデンティティー要素は、大腸菌を含めた真正細菌の系では広く研究されているが、第三の生物界と考えられる古細菌の系についての研究は少ない。そこで、超好熱古細菌であるAeropyrum pernix K1由来のトレオニン、プロリンおよびトリプトファンtRNAについてのアミノアシル-tRNA合成酵素による分子認識機構を解明するために、これらの酵素をクローニングし、大量発現する系を確立した。In vitroでの転写反応によって、野生型および各種変異体を作製し、アミノアシル化反応を追跡することで、これらのアミノ酸種tRNAの認識部位の解明を行った。トレオニンの系では、先に我々が大腸菌のトレオニンtRNAは識別位塩基を認識しない唯一の例であることを証明したが、古細菌のA.pernixでも認識されていなかった。この結果は同じ古細菌である好塩菌の場合と異なり、古細菌界でも異なった認識の進化をしているものと考えられた。トレオニンtRNAの認識部位は、アンチコドンの他は、アクセプターステム末端領域に集中しており、これらの認識部位は、プロリンtRNAを母体としてアンチコドンとアクセプターステム末端領域をトレオニンタイプに移植することにより、アミノ酸受容特異性のスイッチングが起こり、認識部位として証明することができた。プロリンの系については、アンチコドンと識別位塩基の認識については大腸菌の系と同じであったが、アクセプターステム末端のG1-C72の認識が重要であり、この部位の認識は大腸菌と決定的に異なり、真正細菌、真核生物、古細菌間で認識部位が異なっていることを証明することができた。トリプトファンの系については、プロリン同様アンチコドンと識別位塩基の認識については大腸菌の系と同じであったが、アクセプターステム末端のG1-C72の認識が重要であり、大腸菌のA1-U72の認識部位とは異なっていた。A.pernixのこれら3種類のアミノ酸種tRNAについて、いずれの場合も大腸菌とは異なった認識パターンをもち、A.pernixの進化について考える重要な手がかりが得られたものと考えることができる。
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