大腸癌細胞SW480とその浸潤部より単離されたSW620との比較により、SW620においてTIMP-3の発現欠失、TIMP-1の発現亢進を確認し、過去の報告と相応することを確かめた。また、それぞれの細胞株をコラーゲン上で培養する条件下において約5000遺伝子のスクリーニングをマイクロアレイにより検討した結果、SW620において2倍以上の発現亢進のある72遺伝子、2倍以上の発現低下を来たす112遺伝子をそれぞれ確認した。これらの遺伝子群とTIMP-3との明らかな関係は明らかにならなかった。細胞機能解析では、両腫瘍細胞共に、マトリゲルコート下のトランスウェルアッセイにおいてはほとんど浸潤性を示さなかった。また、マウスを用いた脾移植実験においてもほとんど肝転移を示さなかった。一方、マウス皮下移植実験では、両腫瘍共に明らかな浸潤性は示さなかったが、SW620はSW480に比し、有意に発育速度が速かった。現在のところ、SW620におけるTIMP-1の上昇、およびTIMP-3の減少は、腫瘍の増殖能と相関する変化であると考えられた。一方、過去の報告にみるSW620の高浸潤能とTIMP-3低下との関係は、再現できない状況である。TIMP-3でその活性が阻害されるプロテアーゼのうち、とくにコラーゲン内への浸潤能に中心的役割を演じるとされるMT1-MMP(膜型マトリックスメタロプロテアーゼー1)の発現は、アレイ、およびウエスタンブロットにより確認したところ、発現は認めるものの、両細胞株共に低く、細胞株間での明かな差は認められない。このMT1-MMPの発現性と、両細胞の浸潤性の低さとは相関すると考えられた。次期研究期間を得た場合には、TIMP-3の発現低下と細胞増殖能の関係をさらに明らかにする一方で、大腸癌細胞株の高転移株を作成することを試み、MT1-MMP依存性に浸潤性が高まるか否かを見極めた後、TIMP-3誘導によるその制御系の確立を日指したい。
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