研究概要 |
トロンビンレセプターは3種類(PAR1、PAR3、PAR4)存在するが、ヒト血小板ではPAR1とPAR4が発現し、PAR1が主要なトロンビンレセプターとして働いている。PAR1は7回膜貫通構造をもつG蛋白共役型受容体の一つで、トロンビン刺激により活性化され、産生されたIP_3が細胞内Ca^<2+>を上昇させる。これに伴い、PAR1のC末側の細胞内ドメインがリン酸化される。我々は、血小板におけるPAR1の細胞内ドメインを特異的にリン酸化する酵素を調べるために、PAR1の細胞内ドメインを大腸菌にグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)との融合蛋白として発現させた。この融合蛋白をゲル内リン酸化法のin vitroの基質として用いたところ、血小板内にトロンビン刺激により新たに活性化される33kDaリン酸化酵素が検出された。同じ7回膜貫通構造を持つβアドレナリンレセプターはG protein-coupled receptor kinase 2(GRK2)やGRK3によりリン酸化される。そこで、33kDaリン酸化酵素がGRK2やGRK3と関係があるか否かを調べるために、トロンビン活性化ヒト血小板抽出液からDEAE-Sepharose, Heparin-Sepharoseを用いて、この酵素を粗精製した。GRK2やGRK3に対する抗体を用いたWestern blotting法で粗精製した33kDaリン酸化酵素との反応性を検討したところ、この酵素はこれらの抗体と反応しなかった。また、同じ7回膜貫通構造を持つβアドレナリンレセプターやPAR4の細胞内ドメインはリン酸化しないことから、33kDaリン酸化酵素はPAR1に特異的な細胞内ドメインリン酸化酵素と考えられた。また、この33kDaリン酸化酵素の活性化過程では細胞内Ca^<2+>濃度の上昇が必須であるが、阻害剤を用いた実験よりμ-calpainがこの33kDaリン酸化酵素の活性化に関与していることが明らかになった。
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