研究概要 |
ミトコンドリアは細胞内での鉄の存在様式の多くを占めるヘム,さらに鉄-イオウクラスターはミトコンドリアで合成されることがわかっており、細胞内の鉄蛋白質へと輸送される。このミトコンドリアでの鉄代謝機構、及び細胞質への鉄輸送機構にはまだ不明な点が多く残されている。このミトコンドリア鉄代謝機構の解明を試み、以下の結果を得た。 1.出芽酵母において細胞内鉄代謝の中心的な制御転写因子Aft1の活性はミトコンドリアでの鉄代謝異常により影響を受ける。この観察をもとにAft1活性制御機構の解析を行った。Aft1の活性制御には核-細胞質間輸送が重要であることが判明した。また、Aft1と相同性の高いAft2が発現調節をしている標的遺伝子の同定を試み、ミトコンドリアへの鉄輸送に関与している可能性のある遺伝子の転写がAft2により制御されていることが示唆された。 2.ミトコンドリアでの鉄代謝に影響を与えることが予想される遺伝子のトリでのホモログをクローニングし、細胞レベルでノックアウトが可能なトリB細胞株、DT40においてこれらの欠損株を樹立し、これらの遺伝子がミトコンドリアでの鉄代謝に与える影響を観察しようとした。特に鉄-イオウクラスター形成に必要とされる可能性が考えられる遺伝子群に注目し,すくなくともそのうちのNifS遺伝子を欠損させることにより細胞が致死になることが示唆された。また、DT40細胞をもちいたミトコンドリアにおける活性酸素と鉄代謝の関連を検討するため、ミトコンドリアに局在するチオレドキシン(TRX-2)の欠損株の樹立も行った。TRX-2は細胞増殖に必須であり、その欠損株はミトコンドリアで発生する活性酸素種の蓄積を一因とするアポトーシスによる細胞死を起こすことが判明した。
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