本研究課題では、グアニンヌクレオチド交換因子(GEF)によるRasファミリー、RhoファミリーGTP結合蛋白質の活性調節機構に関する研究を行なった。まず、Dblによる上流からの刺激に応答したRhoファミリーの活性調節機構を解析した。Dblは、Cdc42の標的分子であるACK-1チロシンキナーゼによりリン酸化され、その結果、GEF活性が上昇する。一方ACK-1は、アダプター分子Grb2を介して上皮成長因子レセプター(EGF-R)と会合するので、EGF-Rの下流でのDblの機能を検討した。その結果、EGF刺激によって、ACK-1およびDblのチロシンリン酸化が誘導され、その際、EGF-Rの下流でCdc42、Grb2が関与することが明らかとなった。これに伴い、Dblが活性化され、RhoA、Rac1、Cdc42を介して、アクチン細胞骨格系の再構成が誘導された。以上の結果より、チロシンリン酸化によるDblの活性調節が、EGF-Rの下流で実際に機能していることが強く示唆された。一方、Dblの近縁分子には、多くのスプライスバリアントが存在することも明らかとなった。今回、活性調節に関与すると考えられるドメインのうち、N末端に存在するSec14類似ドメインに関して解析を行なった。その結果、Sec14類似ドメインをもつスプライスバリアントともたないものとでは、HeLa細胞に発現させたときに誘導する細胞形態の変化に差異があることが明らかとなった。この差異は、基質となるRhoファミリー蛋白質と共発現させたときの細胞内局在の違いによると考えられる。Rasファミリーに関しては、RasあるいはRap1の標的分子として機能するPLC_εの活性調節機構を主として解析した。その結果、Rap1 GEFドメインがゴルジ装置におけるRaplの下流での持続的活性化に必要であることが明らかとなった。さらに、血球系BaF3細胞での再構成系を利用して、血小板由来増殖因子刺激後の一過性のPLC_εの活性化はRasを介し、持続性の活性化はRap1を介することを示した。
|