研究概要 |
免疫抑制剤ラパマイシンのターゲットとして発見された蛋白リン酸化酵素mTORは、p70S6キナーゼ(p70)やeIF-4EBP1(4EBP1)といった蛋白合成・細胞増殖の制御に関わる分子のリン酸化及び活性化に必須の細胞内情報伝達分子である。mTORは、哺乳細胞が細胞環境に存在するアミノ酸バランスを感知し、細胞周期移行を制御する過程に深く関与していると考えられている。 今年度、我々は、新規mTOR結合蛋白の精製とその同定、さらにその機能解析に成功した。要約すると、 1,アフィニティーカラム等を用いた蛋白精製により、mTORに結合している可能性のある複数の蛋白を同定した。 2,そのうちの1つp150に対して質量分析装置を用いて、マスフィンガープリンティング法により、遺伝子を同定した。 3,その全長cDNA配列の決定を行い、機能解析のために発現ベクターの作成、抗体の作成を行った。アミノ酸配列の結果から、p150はC末端側にWD-repeat構造を持つ蛋白であることが判明した。 4,機能解析の結果 (1)mTORとp150は細胞内で恒常的に結合している。 (2)p150はmTORのリン酸化酵素活性を4〜5倍上昇させる。 (3)p150はp70や4EBP1とも結合し、mTORと3量体を形成している。 (4)p150の過剰発現により、細胞内でp70と4EBP1の活性化/リン酸化が強く阻害される。 ことなどを見い出した。(投稿準備中) 以上の結果は、p150はmT0Rに対するscaffold蛋白として機能し、mTORからp70や4EBP1へのシグナル伝達へ必須の分子であることを示している。現在更にp150の固体レベルでの機能を解析するため、線虫を用いたRNA interference法による遺伝学的解析やノックアウトマウスの作成の準備を行っている状況である。
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