(1)基質にはこれまでの研究によりいくつかの認識に重要なアミノ酸残基が存在することが判明している。しかし、それらの切断部位からの距離は、一次構造上では様々である。そこで、蛍光の共鳴エネルギー移動の原理に基づき、酵素および基質を設計して測定したところ、基質中の重要なアミノ酸は基質によらずほぼ同じ距離で酵素中に存在でしていることが判明した。 (2)基質の中にはこれまで明らかにした認識シグナルの一部を持たないものが少なからず存在する。そこでは、このような前駆体をより切断に有利になるようなアミノ酸に置換した。その結果、基質は変異を加えなくとも切断されたが、アミノ酸置換により切断効率の向上が見られた。これらの結果は、酵素側が認識シグナルの中から最適な組み合わせを選ぶため、基質は認識シグナルの全てを持たなくとも良いことを意味した。 (3)これまでに明らかになったミトコンドリアプロセシングペプチダーゼの基質は、延長ペプチドが10から50残基のアミノ酸からなるものである。前駆体はアミノ末端からミトコンドリアマトリクスに入るため、延長ペプチドは膜透過後に切れる。このため、延長ペプチドは高次構造をとらず、切断点も露出しているものと予想された。しかし、植物には二種のタンパク質の融合前駆体として合成され、ミトコンドリアマトリクスに移入後、機能タンパク質が切り出されるものが存在する。そこで、この反応を解析したところ、プロセシングはミトコンドリアプロセシングペプチダーゼでなされることが判明した。さらに、切断を受けるのが二種のタンパク質が構造をとる前か後かを調べたところ、酵素切断は構造形成の後でも行われるが、切断部位は堅固な構造をとっていないことが判明した。 (4)最近得られた酵素と基質のX-線結晶解析によって基質の切断部位付近の基質-酵素相互作用は明らかになった。しかし、他の重要な認識部位に関しては不明のままである。そこで、蛍光共鳴エネルギー移動法を用いて切断部位からの距離を算出し、X-線結晶解析の結果と合わせ、位置を推定しようと試みた。その結果、基質の切断部位からカルボキシ末端側に約10残基下った領域で、基質は酵素の空洞から出ることが予想された。
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