研究概要 |
本研究は、動物細胞における増殖、分化、細胞死といった広範囲な現象の細胞内シグナル伝達に重要な機能を担うMAPKカスケードの選択的伝達機構とカスケード間のクロストーク機構を解明することを目的として、昨年度に引き続き、アポトーシスやストレス応答に関与するMAPKカスケードの1つJNKカスケードにおいて、そのキナーゼメンバーと結合し足場となるスカフォールドタンパク質(JSAP1およびJNKBPファミリー)の解析を行ったので以下に記す。 1.マウスJSAP1の解析:我々がJNK結合タンパク質として単離、解析しているJSAP1は、培養細胞への遺伝子導入による一過的発現系において、JNK(MAPK)カスケードのシグナル伝達を正に、増殖、分化に関与するERK(MAPK)カスケードのそれを負に調節し、さらに他のグループの解析からニューロンにおいては軸索輸送のドライバーとして機能するという、マルチタレントのアダプタータンパク質である。そこで神経突起の伸長が可能な培養細胞であるラットPC12細胞株を用いて、ERKカスケードの活性化を引き起こす神経成長因子(NGF)あるいはERK, JNKの両カスケードの活性化を引き起こす上皮成長因子(EGF)による細胞内シグナル伝達において、JSAP1の影響を調べた。その結果NGF処理ではJSAP1によるERKの活性化が阻害されたが、EGF処理ではその阻害は認められなかった。これらから、JSAP1は刺激特異的なERKカスケードの阻審すなわち選択的阻害機構に関与する可能性が示唆される。一方、JNKカスケードに関しては現在までに有為な違いは認められていない。 2.マウスJNKBP1/2の解析:哺乳類培養細胞への過剰発現系において、JNKBP1は、JNKだけでなく、MAPKKKであるTAK1あるいはMEKK1とも相互作用することが明らかとなり、JNKカスケードのスカフォールドタンパク質の1つである可能性が示唆された。また、平成13年度に新たに単離したJNKBPファミリーのメンバーJNKBP2は、in vitro結合実験において、MAPキナーゼファミリーメンバーの中でJNK2とより高い親和性があることが明らかとなった。
|