本研究は、哺乳類細胞における増殖、分化、細胞死といった広範囲な現象の細胞内シグナル伝達に重要な機能を担うMAPKカスケードの選択的伝達機構とカスケード間のクロストークの分子機構を解明することを主な目的として、JNK(MAPK)カスケードのスカフォールドタンパク質JSAPおよびJNKBPファミリーの解析を行った。 JNKおよびp38(MAPK)カスケードのMAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK)には、JNK、p38以外に生存シグナルNFκBをIκBキナーゼのリン酸化を介して活性化させる種類がある。ストレス応答や細胞死だけでなく生存のシグナルNFκB活性化のシグナル伝達制御に、JNKカスケードスカフォールドタンパク質JSAPあるいはJNKBPの関与を調べたところ、JSAP1ファミリーでは、神経系発現が特徴的なJSAP1、ユビキタスな発現が認められるJSAP2、いずれもMAPKKKであるMEKK1の過剰発現によるJNKとNFκBの活性化に、それぞれ正と負に制御していることが明らかとなった。また、JNKBP1は、MAPKKKであるMEKK1あるいはTAK1による生存シグナルNFκBの活性化を、正あるいは負に制御している可能性が示唆された。すなわち、これらのJNKカスケードのスカフォールドタンパク質は、ストレス応答性のMAPKKKによるプロアポトッチックシグナルJNKと生存シグナルNFκBの両活性化を制御する、すなわち、カスケード間のクロストークを担う全く新しいタイプの多機能アダプタータンパク質である司能性が示唆された。また、本研究期間中に新たに単離したJNKBPファミリーのメンバーJNKBP2は、精巣で特異的な発現、さらにJNK2との結合親和性が認められた。JNKBP2の生死シグナル調節機構は今後の課題である。
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