副腎皮質は、異なるステロイドホルモンを産生する3種類の分化した細胞層を含む。このような細胞の配置が形成・維持されるためには、個々の細胞で増殖、分化、接着、移動、除去などを調整、連係させる役割を持つ分子が不可欠である。しかし、このような役割を持つ分子は同定されていない。我々は近年、齧歯類の成熟副腎皮質の球状層と束状層の間に、副腎皮質の幹細胞層と推定される細胞層を発見した。昨年度、この未分化細胞層と共通の性質を持ち、分化能を保持した細胞株を樹立することに成功した。未分化状態の副腎皮質細胞には、細胞の増殖・分化の制御に重要な分子が特異的に発現している可能性がある。そこで未分化細胞株に特異的な蛋白質の同定を行った結果、新しい蛋白質を同定した。この蛋白質は、分泌シグナル、EGF様配列、プロカテプシンB様配列から構成された。このような構造は、本蛋白質が、細胞外において情報伝達を行うこと、細胞外基質等の分解に関与することが推定された。次に、本蛋白質を束状層様に分化した細胞株に発現させ、細胞の分化状態を解析したところ、コルチコステロン合成における最終段階の酵素P45011betaの発現が抑制された。この結果は、新規蛋白質の発現により、細胞層特異的なステロイド合成酵素遺伝子の発現が抑制されることを示す。従って、我々が未分化細胞株を用いて同定した新しい分泌蛋白質は、少なくともin vitroで最終分化形質を抑制しうることが示された。本蛋白質は、他の臓器にも発現している。今後の研究により、組織一般の形成、維持における本蛋白質の役割が解明されれば、人工臓器の開発、臓器移植を含む組織損傷の治療法、がんの転移の抑制をはじめとするがんの治療法の開発のために、本蛋白質の利用が考えられる。
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