研究代表者は最近、細胞死受容体刺激によって開始されるアポトーシスにおいて活性化されるリボヌクレアーゼ活性が28SリボソームRNAを特異的に切断し、タンパク質合成を阻害してアポトーシスを促進することを明らかにした。この研究をさらに推進するため、細胞死受容体Fasを刺激してアポトーシスを起こしたヒトJurkat細胞を利用した無細胞系を用いてリボソームRNAの分解活性分画をクロマトグラフィー法により行った。本法は生化学的には正当な方法であるが、細胞内に存在する他の非特異的な分解活性を有するリボヌクレアーゼ活性との分離に困難を伴なった。この点を克服しさらにアポトーシスとリボソームの関連をより網羅的に解析する方法として、正常細胞とアポトーシス細胞からリボソーム画分を単離して、両者に含まれるタンパク質を電気泳動的に分析しアポトーシス特異的に見られるタンパク質バンドを質量分析(MALDI-TOF MS)を利用したマス・マップ法で解析することで、アポトーシス特異的にリボソームに作用するタンパク質の同定法を検討してきた。今後上述の2法を併用して本研究の目標を達成したい。リボソームに関する網羅的研究の過程で、リボソームタンパク質L39に相同性の高い新しいタンパク質を見出し、このタンパク質が正常組織では精巣のみに発現するにもかかわらず、癌化に伴って様々な組織由来の癌細胞に発現することを明らかにした。この分子は新しい腫瘍マーカーとしての可能性があるだけでなく、発癌(およびその抑制メカニズムであるアポトーシス)と翻訳制御といういまだ未開拓の研究分野を切り開く重要な分子と考えている。さらにアポトーシスが起こりはじめる初期発生(胚着床)に関与する分子trophininに結合するタンパク質として同定されたtastinについて、その新しい機能と相互作用を明らかにした。
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