研究代表者が見出したアポトーシスを促進すると考えられるリボヌクレアーゼ活性の分析法として、リボソームをターゲットとしていることから、正常細胞とアポトーシス細胞からリボノーム画分を単離して両者に含まれるタンパク質を電気泳動的に比較し、アポトーシス特異的に見られるタンパク質バンドを質量分析を利用して同定する方法を採用した。この方法はリボヌクレアーゼとリボソームを共有結合で結びつける架橋剤を併用することにより、相互作用が一時的な場合にも有効に働くようにさらに改良された。この分子細胞生物学的手法に加えて、昨今充実の著しいゲノミクス、トランスクリプトミクスの情報を生かした解析を併用した網羅的手法から新たに見出されたヒトリボソームタンパク質L39-2について、特異的に認識する抗体等のプローブを作製し、このタンパク質の発現動態を広範に調べた。また一般に組換えリボソームタンパク質の大量調製は困難とされているが、実験条件を精査することにより、L39-2の組替え体を再現性よく得る系を確立した。同タンパク質の酵母ホモログは翻訳の精度に関与することが明らかにされ、その高等動物における機能の解析にこれらのツールはそれぞれ固有の有益性があると考えられる。加えてヒトにおいて、リボヌクレアーゼが関与していると考えられるアポトーシスを含めた系について研究を進め、臨床癌組織(特に大腸癌)における20種類以上のリボソームタンパク質の組織発現と細胞内局在の時間的変化の調査から、従来の常識を覆す特定のリボソームタンパク質の発現パターンを明らかにした。また哺乳類においてアポトーシスが起こりはじめる初期発生(胚着床)に関与する分子trophininについてノックアウトマウスの作製・解析を行ってきたが、さらに特有の遺伝子発現メカニズムを解明し、同分子の生体内での新しい役割とその疾患との関わりを示した。
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