プロテインキナーゼC(PKC)は、12種類の分子種からなる蛋白質リン酸化酵素群である。我々はこれらのクローニングで発見した分子の構造と機能について解析し、今までにホルモン分泌や、細胞の増殖と分化、また、細胞死の決定等にPKCが分子特異的に関与する事を示してきた。更に、脳下垂体腫瘍由来のGH細胞株のホルモン分泌系において、ε型PKCが視床下部ホルモンのTRH(thyrotropin-releasing hormone)刺激で強く活性化され、中間径繊維構造のケラチン8(K8)をリン酸化することを見出した。 本研究は、ε型PKCの細胞内基質として同定したII型ケラチンのK8に焦点をあて、ホルモン刺激によるε型PKCの活性化以降の分子作用機構とそれらの生理機能について明らかにすることを目的として、平成13年度より15年度まで分子生物学的手法にプロテオーム解析、組織免疫学的手法を加味した研究を行った。その結果、ε型PKCによるケラチンのリン酸化部位は3箇所以上あるが、生理的なホルモン刺激によってはこれらの少なくとも2箇所がリン酸化されることが判明した。また、ホルモン刺激によって、アクチン繊維系の制御因子であるMARCKSやcofilin/destrinのリン酸化レベルが変動すると共に、微小管系の制御因子であるstathminのリン酸化も起こること、また、調節性開放放出の増強を含むいくつかの生理的変化が起こることが明らかとなった。ケラチンは単層上皮系中間径繊維の構成物質であるが、ε型PKCによるリン酸化によって、単独か、あるいは、他の骨格繊維制御蛋白質とのダイナミックな連携によって、これらの生理的変化のいずれかに関与していると考えられる。
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