研究概要 |
RGSタンパクは、三量体Gタンパクの制御因子である。私たちは、脳神経系に特異的なRGS8をクローニングし、それがGi系のGタンパク応答をスピードアップする作用があることを明らかにしてきた。また、培養細胞にRGS8を発現させると主に核に分布すること、活性型のGαoを共発現させGタンパク刺激を行うとRGS8がGタンパクの分布する細胞膜に移動していくことを明らかにした。これらのことから、RGS8タンパクの細胞内分布が神経活動依存的に制御されている可能性が高く、その分布変化がRGS8の制御効率を変化させていることが予想された。またRGS8は、小脳プルキンエ細胞に高濃度で発現しており、小脳機能に密接に関連しているのかもしれない。本研究では、RGS8タンパクの神経活動依存的な細胞内分布制御を明らかにし、その分布調節の機構、そしてその生理的な意義を解明していく。本年度は、特に以下に示したことを明らかにした。 1)培養神経細胞におけるRGS8の分布 これまでの非神経細胞を用いたRGS8の発現実験と、小脳のプルキンエ細胞でのRGS8タンパクの核外分布の観察から、プルキンエ細胞におけるRGS8の分布がどのように決まっているかが重要な問題になってきた。そこで、発現細胞が神経細胞であれば、RGS8が核外に移行されるのかどうか、神経に分化するP19細胞を用いて検討した。まず、P19細胞を神経に分化させるレチノィン酸処理を行い、次いでcDNA導入によりRGS8を発現させ、RGS8タンパクの分布を解析した。すると、RGS8は、やはり核に集中して分布すること、さらに、共発現実験で、RGS8が、神経細胞でもGαoの共発現で核から細胞膜に移動することが判明した。しかし、その分布パターンは、プルキンエ細胞内のRGS8とは異なるものであり、またプルキンエ細胞でGαoとRGS8の分布は一致しなかった。これらのことから、RGS8の膜分布は、Go活性化に依存して制御されうるが、実際のプルキンエ細胞内では全く異なったシステムで分布が決まっているものと推測された。 2)新規分子種RGS8Sのクロ-ニングと新たな分布制御機構 RGS8のRT-PCRおよびRGS8遺伝子を解析した結果、RGS8の新たな分子種RGS8Sを見出した。このRGS8Sは、alternative splicingによって、RGS8の180アミノ酸うちGα結合とは無関係のN端部9残基のみが新たな7残基に置き換わった分子であった。このRGS8Sは、機能解析の結果、Gi/oタンパクの応答を加速する能力をもっていたが、RGS8に比べその作用が比較的弱いことが判明した。次に、これまでGαqへの親和性が低いことから注目していなかったGqシグナルの制御能を、RGS8とRGS8Sで比較してみた。すると、「RGS8は、特定のタイプのGq受容体系に作用してその応答を抑制する。しかし、N端部9残基のみがすげ替わったsplice variantのRGS8Sは、この能力を欠いている。」ことが判明し(Saitoh et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA,99:10138 2002)、全く新しいタイプのRGSによる受容体選択的なGタンパクシグナル制御の存在が明らかになった。この発見から、RGS8は、N端を介して特定の受容体と直接相互作用して細胞膜上のGqタンパクの近傍にリクルートされ、そしてGq制御因子として機能するというシステムが示唆された。このことは、さらに新たなRGS8の分布を決める機構の存在を示すことになった。
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