研究概要 |
矢部の技術的な指導に従って,電気生理実験セットを構築し,大腸菌の巨大化およびパッチ法は再現できるようになった。特に,プレバキュオールでも全"細胞"記録できたことは多くの技術的困難をおおむね排除できたことを示す。ところがここで新しい問題が浮かび上がった。矢部らは大腸菌パッチ法をイオンポンプやトランスポータの解析に使ってきたので,細胞内外の溶液組成はチャネル電流を除外するような条件である。チャネル電流を記録するためにはパッチ電極に高濃度の一価陽イオンを加える必要があるが,この条件が意外なことに重大な問題を引き起こした。そもそも大腸菌ではパッチ電極でシール抵抗がGΩに達しても,全細胞記録に移行するために短時間の高電圧パルスを負荷する必要があり,この条件が成否を決めるものといわれてきた。今回イオン電流測定用の溶液組成に変えるとパッチ膜を破ることができなくなってしまった。現在最適なパルス条件を検討中である。もう一つの問題点は,全細胞記録を可能にするようなパッチ電極が比較的細くなければならず(電極抵抗が高い),その場合電圧固定の速度に遅れが出ることである。チャネル電流記録の場合,速い電圧固定速度が不可欠な条件である。電気生理学の技術的な側面から,全細胞記録の成功率と得られた条件の適合度を判断しながら,至適実験条件を設定することが今後の課題である。 大腸菌のチャネル分子発現については,KcsAチャネル発現系を確立した。ある程度の発現量は確保できたが,今後簡便な精製法とさらに大量の発現を目指したい。 KcsAの機能解析に関しては,大腸菌パッチ法と平行して脂質平面膜法による測定も現在準備中である。
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