人工脂質膜小胞(リポソーム)の水溶液中における動態挙動を光学暗視野顕微鏡で直接リアルタイムで観察する系を用いることによって、膜の融合や多層化、膜穿孔、あるいは膜の可溶化過程で引き起こされる様々なトポロジーの変化を伴う膜の形態変化などを世界で初めて可視化することに成功した。 上記の研究の過程で、アクチン結合蛋白質(タリンやエズリン)などの添加によって生じる膜穿孔現象の結果、リポソームがカップ状の形態を取ることが明らかにされたが、シミュレーション解析によってこの形態の力学的安定性が定量的に評価され、このカップ型の形態が最も安定であることが示された。 さらに同様な膜穿孔現象が、陽電荷を持つ界面活性剤を中性または酸性リン脂質から作られたリポソームに加えることや、逆に中性もしくは酸性の界面活性剤を陽電荷を持つ合成脂質を膜中に含むリポソームに加えることによっても生じうることが明らかになった。また陽電荷を持つ界面活性剤を陽電荷を持つリポソームに加えた場合にはリポソーム膜の表裏反転が観察された。また他の膜可溶化条件下では、リポソームが膜の振動とその停止を繰り返しながら縮小していき最終的に消失する現象が観察された。このときリポソームの内部に別の小さな小胞が存在する場合、この内部小胞が膜の融合を伴うことなく外部に放出されることも捕捉された。これらの結果は、生体膜が潜在的に非常に高い変形能力を持っていることを示している。
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