融合や分裂などトポロジーの変化をも伴う生体膜の形態変化は、例えば生きた細胞などが自身の構造を保持しながら外界と物質や情報を交換する際に必須のものである。 本研究では、人工脂質膜小胞(リボソーム)の水溶液中における動態挙動を光学暗視野顕微鏡で直接リアルタイムで観察する系を用いることによって、インフルエンザウィルスの膜融合誘導蛋白質ヘムアグルチニン由来のペプチドや溶血性ハチ毒の主成分ペプチドであるメリチンによって誘引されるリボソーム膜の融合過程、あるいはその他界面活性作用を持つ物質による膜の可溶化過程で引き起こされる膜穿孔や二分子膜の表裏反転など様々なトポロジーの変化を伴う膜の形態変化を世界で初めて可視化することに成功した。 特に、ヘムアグルチニン由来のペプチドを用いての膜融合に関する研究からは、巨大リポソーム間の融合には、必ずそれに先立ってリポソームに収縮が起きること、この収縮が膜の多重褶曲化によって生じるのであろうこと、融合を誘導するための条件が直径が数マイクロメーターでほぼ細胞と同じ大きさを持つ巨大リポソームの場合と直径が数100ナノメーターのベシクルの場合とで異なり、多分この違いが膜の持つ曲率の違いに起因するのであろうこと、が示された。 上記の膜融合や膜穿孔、リポソーム膜の表裏反転など観察された全てのトポロジー変化を伴う膜の形態変化を誘導する際、用いた界面活性作用を持つ物質の溶液中で有する電荷と膜との相互作用が重要であることが示唆された。
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