我々はこれまで、大脳皮質視覚野でのシナプス伝達の長期増強を、主に細胞外電場電位を測定することで評価してきた。しかしこの方法では、興奮性伝達が増強しても、抑制性伝達が減弱しても長期増強と見なされてしまう。既に、シナプス後細胞の高頻度発火により、皮質視覚野抑制性伝達に長期抑圧が生じることを我々は報告しており、この現象が電場電位の長期増強の実態である可能性が高い。そこで本年度は、より詳細にこの長期抑圧の発現メカニズムを調べた。 顕微鏡下でスライスパッチを行い、whole cell voltage clamp法を適用して、この長期抑圧の発現がシナプス前性か、あるいはシナプス後性であるかを検討した。生後20から30日令のSDラット皮質視覚野スライス標本において、興奮性伝達をDNQX、APVで抑制した後、5層の錐体細胞から4層刺激で誘発されるIPSCを記録した。-70mVに膜電位固定した状態から、20msec、70mVの脱分極パルスを20Hzで5秒間与え、これを10秒ごとに30回繰り返すと、IPSCの振幅は脱分極刺激前の75%までに減弱する長期抑圧が生じた。このときIPSCの逆転電位は変化せず、IPSCコンダクタンスが減少した。電気泳動的に与えたGABAによる反応も同様に減弱した。また、TTX存在下で脱分極刺激を与えると、miniature IPSCの平均振幅は70%程度に減弱した。しかし、paired-pulse ratioは有意に変化しなかった。これらの結果から、この長期抑圧はシナプス後性に発現すると考えられる。
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