大腸菌細胞膜に存在するチトクロムboは、4個の酸化還元中心(ヘムb、ヘムo、Cu_B、ユビキノール8(Q_8))を有し、ヘムo-Cu_B複核中心で酸素分子を還元する。チトクロムboの反応機構を理解するためには、反応中間体における各酸化還元中心の状態を知る必要がある。本課題研究の目的は、本酸化酵素の活性中心の電子状態と酵素の反応機構との相関を明らかにする事である。 1.完全酸化型チトクロムboのヘム鉄-Cu_B複核中心はヘム鉄の電子スピンS=5/2とCu_BのS=1/2がスピン交換相互作用をなし、整数スピン系の特異なEPR遷移を示す。この複核中心の電子状態を解析する為、特殊な二重モードEPR空洞共振器を試作し、測定を試みたが、満足できる測定感度が得られず、改良すべき幾つかの問題点が残された。 2.酸素還元反応サイクルに於けるP-中間体をEPRで捕捉する実験をチトクロムboと過酸化水素との反応中間体でおこなった。EPRで観測されたラジカル分子種がチロシンラジカルであるか否か、実験を繰り返し行ったが再現性に問題がある。酸化型酵素とH_2O_2の反応中間体にはCu_Bの信号は検出されなかった。 3.還元型酵素と酸素飽和緩衝液の混合・凍結が0.2ms以内で可能な高速凍結法と、複数の酸化還元中心の状態を観測できるEPR分光法と組み合わせて、反応中間体の電子状態を決定する事を試みた。ヘムb信号が弱く観測されたが、複核中心に由来する信号は観測されなかった。一方、1ms以降で凍結した試料ではヘムb信号の強度が増加し、ヒドロキシ型ヘムoに由来する高スピン型ヘムの生成が観測された。これまでの研究と合わせると、凍結後0.2〜1msの時間帯では、F型中間体が生成したと考えられる。ヘムbかQ_8のいずれかが複核中心を還元する必要があるためQ_8から複核中心へ電子が移動したと推測した。
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