氷核活性細菌には氷核蛋白質が存在し、-5℃以上の温度で細胞外の水を凍らせ、細菌がみづからの細胞内での致命的な凍結を防ぐ働きをしている。この氷核蛋白質は、1000残基以上のアミノ酸からなる大きな蛋白質であり、3つのドメインに分けられる。それらは、N末端側のNドメイン、中央のリピードドメインであるRドメイン、そしてC末端側のCドメインである。Rドメインは、互いに似たオクタペプチドが連続して100回以上も繰り返している。特に、1番目のアラニンと5番目のセリンが強く保存されている。本研究の目的は、これまで知られている氷核蛋白質タンデムリピート配列を詳細に解析しその分子進化を議論し、また立体構造の研究に利用することである。また、タンデムリピートを形成するペプチド合成し、NMR法によりその立体構造を明らかにすることである。 これまで、10個の氷核蛋白質の塩基配列およびアミノ酸配列が決定されている。ドットプロット解析を含めたさまざまな解析から、Rドメインが4つのサブドメイン(R_N、R_1、R_2、R_C)に分けられることをみいだした。また、R_1とR_2ドメインでは、生物種内および生物種間においてリピート数が異なる著しい多型を示した。これらの結果にもとづいて、Rドメインのけるリピート配列の形成過程に関する一つの可能な進化モデルを提案した。 上述の配列解析の結果を踏まえ、すべての氷核蛋白質において保存性のよいオクタペプチドが3回繰り返した塩基性の24残基からなる次のアミノ酸配列(H-SGLRSVLTAGYGSSLISGRRSSLT-OH)を選択し、合成したペプチドのNMRによる立体構造研究を行った。NOEの結果は、LTAGYの配列においてターン構造をとることを示した。この結果から、オクタペプチドが2回繰り返した16残基ごとにターン構造をとることが示唆され、Rドメインの立体構造に関して三角形モデルを提案した。
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