マイコプラズマ(Mycoplasma mobile)は、細胞壁のない原核生物で、フラスコ型の細胞形態を持つ。細くなった方の端でガラスの表面にはりつき、そのまま滑るように動く滑走運動を行う。その速度は毎秒2.5マイクロメートル(細胞長の約4倍)で、最大力は27ピコニュートンに達する。しかしマイコプラズマには、他の運動性バクテリアで見られるようなべん毛や線毛も、さらには真核生物の細胞運動で見られる、ミオシンのようなモータータンパク質も存在しない。そのため、この運動のメカニズムは現在の生物学では説明できない。本研究はこの未知のメカニズムを解明することを目的として行われ、以下のことを明らかにした。 1.滑走運動の中心的な役割を果たしているのは、それぞれ349、521キロダルトンという大きな分子量と、特殊な構造を持っている2つのタンパク質である。それらをGli349とGli521と命名した。 2.Gli349タンパク質は滑走中のガラス結合を、Gli521は力発生を行っている。 3.滑走タンパク質がマイコプラズマ細胞の細くなった部分の基部(neck)表面に帯状に存在している。 4.滑走しているマイコプラズマを、急速凍結フリーズフラクチャーシャドーウイング電子顕微鏡法で観察することにより見られた滑走装置は、膜からつきだしている50ナノメートル長のスパイク様構造である。 5.精製したGli349タンパク質分子は全長約115ナノメートルの音符のような構造である。 6.以上の結果は、Gli521によって動かされているGli349がガラスへの結合と解離をくり返すことによって細胞を押し出していると考えるとよく理解される。
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