研究概要 |
P450の触媒反応には、2等量の水素イオンが必須であるが、どのように水素イオンが酵素内部の活性部位に供給されるのかまだよく解明されていない。数多くのP450の中で最もよくその構造と機能の関連が解明されたカンファー水酸化反応を触媒するP450camにおいて、昨年水素イオンの取り込み口となるアミノ酸残基、Asp182を見出した。そこから水素イオンは、Asp182に近接したAsp251に渡り、Asp251、2分子の水、Thr252で構成される水素結合のネットワークを介して、ヘム鉄に結合した酸素分子に水素イオンが輸送されると、推測される。しかし、上記2分子の水のなかで、Asp251に近接した水分子は、結晶構造解析では観察されていない。 近年、ウシチトクロム酸化酵素で、ペプチド(-CO-NH-)を介した水素イオンの輸送が提唱され、もしこのような輸送が可能なら、上述した水分子が存在しなくても、水素イオンは、Asp251から、Asp251とThr252の間のペプチド、水分子を介して、ヘム鉄に結合した酸素に水素イオンが輸送されうる。そこで、上記ペプチド結合を水素イオンの輸送が難しいプロリンとのペプチド結合に変えて、その可能性を検討することにした。Thr252をProに置換した変異酵素を大腸菌で発現させ、SDS-PAGEで単一のバンドにまで精製した。基質カンファーが結合した酸化型変異酵素は、野生型と異なり、完全な高スピン型にならず、低スピン型が大部分を占めた。還元型、一酸化炭素化型の光吸収スペクトルは、野生型と変わらなかったが、分子吸光係数は、有意に変化した。また変異酵素の活性は、野生型の15%に低下したことから、変異によって活性部位構造および酵素機能に変化が起きたことが示された。しかし、触媒反応全体のどの部分反応が低下したため、活性の低下が起とったのか、まだ不明で、今後検討すべき課題である。 2,3の膜タンパク質で、酵素分子外部から内部への水素イオンの輸送を阻害することが報告されているZn^<2+>の効果を野生型P450camで検討した結果、2mMのZn^<2+>で、活性が約50%に低下することがわかった。また1mMのZn^<2+>で、酸化型P450camの吸収スペクトルに変化が見られ、活性部位構造の変化が示された。しかし、吸収スペクトルの変化と活性阻害の関連、またZn2+結合部位は今後の検討課題として残った。
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