本研究の目的は、大腸菌のF因子DNA分配遺伝子産物、SopAとSopBとF因子DNAとの高次複合体の構造、および、そのモジュレーションによる分配の遂行過程を解明することにある。本年度の成果は次の通りである。 (1)等電点電気泳動により、SopBには2つの分子種の存在することが明らかになった。消化酵素による分解産物をHPLCで分離してTOF-MSをおこなった結果、遺伝子によってコードされているアミノ酸配列からは予測されないペプチドが2種検出された。修飾部位は、N末とC末に存在することが分かったが、分子量の差は、既知の修飾によってもアミノ酸置換によっても説明できない。 (2)SopBと細胞内で結合するタンパク質を、アミノ酸特異的な可逆な架橋反応と、抗SopB抗体カラムを用いて単離できることが明らかになった。結合の化学量論数はほぼ1:1である。 (3)SopAを精製して結晶化を試みた。その結果、1.4-1.7M硫安、0.1Mクエン酸pH5.8、20℃で板状結晶が集積したものが得られた。 (4)SopAのDNA結合部位は自分の遺伝子のプロモータ領域に4つあることが報告されているが、結合様式は不明である。それぞれの塩基配列を改変したところ次のことが明らかになった。(1)ミニF因子DNAのコピー数に変化はない。(2)最上流の結合部位に変異を入れたものでは、SopAの生産量が約2倍、その他のものでは約2.8倍に増大した。(3)SopBの生産量は約1-1.3倍であった。
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