研究概要 |
1)マイクロチュブル結合ドメインのX線結晶構造解析 タウ蛋白質のマイクロチュブル結合ドメイン領域について、GST蛋白質との融合体として大腸菌中で遺伝子発現させ、その融合蛋白質の結晶化に成功した。ついでその蛋白質結晶の構造解析を試みた。2Å分能までのX-線回折データはSpring8を用いて測定した。結晶は正方晶系に属し、空間群はP4_32_12、格子定数はa=b=92.24Å,c=57.68Åである。構造解析はGSTの立体構造情報を用い、分子置換法により行った。構造の精密化は最小自乗法により行った。現時点での信頼度因子はR=0.258である。解析の結果、GST蛋白の立体構造は明瞭であるのに対し、タウ蛋白のマイクロチュブル結合ドメインは、全体として伸長構造の2量体構造を形成しているものの明瞭に各原子位置を決定するに至っていない。このことは、ドメイン領域の分子揺らぎが大きいことに起因しており、タウ蛋白のタングル形成のコア部分がこのドメイン領域であることから、構造揺らぎとタングル形成との関係を示唆している。このことは重要な知見であり、現在さらに詳細な解析を進めている。 2)マイクロチュブル結合ドメインペプチドの溶液構造解析 タウ蛋白のマイクロチュブル結合ドメインは類似の32-33残基のアミノ酸配列よりなる4回繰り返し構造(R1-R4)から成っている。各繰り返し構造の構揺らぎを解明するために、R1-R4ペプチドのTFE溶液中での立体構造を核磁気共鳴およびエネルギー計算により解析した。その結果、R1,R2,R4はヘリックス構造をとるのに対し、R3は伸長とヘリックス構造が共存する特徴的な構造を示した。また、いずれの、2次構造もそのアミノ酸側鎖は両親媒性の分布を示した。このことは、PHF形成において、隣接するマイクロチュブル結合ドメイン間での疎水・親水相互作用により分子会合形成を示している。 3)マイクロチュブル結合ドメイン間の相互作用 マイクロチュブル結合ドメイン間の相互作用について、蛍光法、光散乱法、表面プラズモン共鳴法、電位顕微鏡測定により検討した。得られた結果を基に、タウPHF形成での、マイクロチュブル結合ドメインが核となる各繰り返し構造依存的会合機構モデルを提示することが出来た。即ち、R3の伸長構造間会合が起爆剤となって、R3のヘリックス構造、ついでR2のヘリックス構造、そして最後にR1,R4のヘリックス構造間での分子会合が生じ、あたかも開いた服をジッパで閉じるように、PHFのコア構造が形成されるモデルであり、今後のPHF形成機構解明を考える上で重要な示唆を与える。
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