マウスにおける自然突然変異の大部分は(5'-)CG(-3')配列部位のシトシン(C)がチミン(T)に変化したものであり、また様々な人の遺伝病における原因遺伝子での変異、また癌組織での癌抑制遺伝子(p53等)の変異でも、その多くが同じC→T変異であることも明らかにされている。この変異の原因としては、Cのメチル化と脱アミノ化によるTへの変化、並びにそれによって生じるG/Tミスマッチ対合部の修復の不完全さによると推測されているが直接的な証明はされていない。この研究では、CG部位のG/Tミスマッチ対合部のTを特異的に除去する活性を持つ「チミン DNA グリコシラーゼ(TDG)」の遺伝子ノックアウトマウス(KO マウス)を作成し、その修復活性欠損マウスでC→T変異のみが特異的に正常個体よりも増加するかどうかを調べることにより、メチル化したC(mC)の脱アミノ化が哺乳動物細胞DNAに生じる自然突然変異の原因かどうかを明らかにしようとした。 Tdg遺伝子欠損マウス:Tdgヘテロ欠失マウス同士を交配しホモ欠失マウスを得ることを試みたがホモ欠失マウスは生まれてこず、Tdgホモ欠失マウスは胎生致死であった。致死時期を検討した結果、胎齢11.5日までにほとんどのホモ欠失胎児が死亡することがわかった。 Tdg欠損胎児でのグリコシラーゼ活性:胎齢10.5日胎児の粗抽出液中のグリコシラーゼ活性を測定した所、ヘテロ欠損胎児では野生型胎児の活性の約60%、ホモ欠損胎児では約8%であった。すなわち、細胞内のG-T ミスマッチグリコシラーゼ活性の90%以上はTdgが担っているものと考えられた。 ホモ欠損胎児での自然突然変異率:胎齢10.5日胎児ではTdg活性がほぼ失われていたため、その突然変異頻度を測定したところ野生型とホモ欠損の間に有意差は見られなかった。
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