DNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子、hMLH1の胚細胞変異は、遺伝性非腺腫症性大腸癌(HNPCC)の主要な原因である。また、その異常の約30%がミスセンス変異であるという特徴をもつ。前年度、39種のhMLH1胚細胞変異蛋白について詳細な解析をおこない、大部分の胚細胞変異は、hMLH1蛋白のN末、または、C末領域での構造異常を引き起こすことを明らかにした。本年度は、これらの結果を踏まえ、hMLH1の胚細胞変異、特に、アミノ酸の変異を伴うミスセンス変異が真に病気に関連する変異であるのか、それとも単なる多系なのかを正しく評価する方法として酵母の2ハイブリッドの系の有用性を検討した。MMR蛋白であるhPMS2、hEXO1をhMLH1の相互作用パートナーとして、2ハイブリッドアッセイをおこなった結果、23種のミスセンス変異のうち、18種(78%)でβ-ガラクトシダーゼ活性の著しい低下を見出した。また、β-ガラクトシダーゼ活性の低下が見られなかった5つの変異のうち、2つは多系であることが判明した。一方、すでに報告のある9種のアミノ酸の変化を伴うhMLH1の多系については、野生型とほぼ同じβ-ガラクトシダーゼ活性を示すことが明らかとなった。したがって、この方法はhMLH1変異の簡便で正確な診断を可能にする。 また、hMLH1胚細胞変異の効果をヒト細胞で解析する系を確立するため、hMLH1のヒト欠損細胞株HCT116のゲノム上に単一コピーのlox部位を導入し、Cre-lox部位特異的組換えにより、外来プラスミドを染色体の同じ位置に、単一コピーで挿入する系を作製した。野生型のhMLH1 cDNAを含むプラスミドをこの系で挿入すると、MMR欠損の細胞株が修復可能な細胞株へと変化する。したがって、この系を用い、ヒト細胞でのhMLH1胚細胞変異の効果を解析することが可能となった。
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