本研究はEBV複製起点oriPにおける複製開始複合体を合成した複製開始因子を用いて試験管内で再構成し、その構造と各複製因子の機能を解明することにある。複製開始複合体にはEBVの複製因子であるEBNA1と細胞の複製因子MCM、cdc6が含まれる。まず、再構成に必要な各複製因子をバキュロウイルスベクターを用いて昆虫細胞で多量に発現させ精製することが必要であった。複製因子のうちMCMとcdc6の合成は成功した。しかしながら、EBNA1の合成には技術的な困難があった。EBNA1全長の合成は収量が低いために断念し、最終的にはアミノ末端側にあるグリシン/アラニンの反復配列のドメインを欠損したEBNA1変異体の合成に成功した。この欠損変異体が複製活性を保持していることもトランジェント複製アッセイで確認できた。これらEBNA1合成の問題克服のために実験計画の遂行が大きく遅れ、複製の試験管内再構成の実験はその準備実験に着手できたに過ぎない。計画遂行の遅れは大いに反省すべき点であると考える。 以上の研究成果に基づいて、カエル卵抽出物を用いた複製の試験管内再構成の研究、EBVミニ染色体を用いた複製開始複合体の研究、EBVミニ染色体を用いたテロメラーゼの研究等の共同研究を新たに開始した。 これら実験と平行して、oriPの複製起点としての機能をさらに詳細に検討した。その結果、oriPの複製活性がシグナル伝達によって制御されていることが新たに判明した。TRAF5とTRAF6がこのシグナル伝達に重要であること、TRAFの下流でp38 MAPKが活性化してoriP活性の抑制に関与していることを明らかにした。また、p38 MAPKが直接EBNA1をリン酸化してその複製活性を抑制している可能性を検討し、534番目のスレオニンが複製活性に重要なアミノ酸であることが明らかになった。このアミノ酸残基を利用してEBNA1に依存した試験管内複製の特異性が証明できることから、今後の研究に重要となる知見を得ることができた。
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