RNAポリメラーゼIIのC末端領域(CTD : C-terminal domain)は転写開始時にCTD kinaseによりリン酸化される。CTDのリン酸化は、転写調節およびmRNA特異的なRNA修飾において非常に重要な役割を担っている。ところが酵母菌を用いた分子遺伝学的解析より、熱ショック転写因子(Hsf1 : (heat shock factor 1)による熱ショックタンパク遺伝子の転写活性化にはCTD kinase(Kin28 タンパク)が必要ないことが示されている。これまでに我々は、Hsf1によるKin28非依存的転写活性化には、Hsf1の転写活性化領域AR2とC末端調節域CTM(C-terminal modulator)が必須であることを明らかにした。今回転写活性化におけるCTMの機能について検討するため、この領域に点変異を持つ高温感受性Hsf変異株を作製し、その高温感受性を抑圧するhsf1分子内抑圧変異体(intragenic suppressor)を分離・解析した。その結果、抑圧変異はHsf1のDNA結合領域およびCE2領域に見い出された。両領域は転写抑制に関与することが示されている。したがって、CTMはDNA結合領域やCE2領域と相互作用し、高温などのストレスにより調整されるHsf1の構造変化(活性型への変化)を制御すると考えられる。さらにKin28非依存的転写活性化では、CTMはAR2の転写活性化能を調整することにより、CTDのリン酸化無しに転写開始させることが示唆された。現在、この制御機構について解析を進めている。
|