転写活性化因子からの転写シグナルは、仲介因子を経てRNAポリメラーゼIIと基本転写因子(TBP、TFIIB、TFIIE、TFIIFとTFIIH)からなる転写開始複合体に伝達される。したがって、この基本転写装置を構成するタンパク質群は、全ての遺伝子の転写に必須であると考えられる。ところが、酵母菌のCUP1(銅メタロチオネイン)遺伝子の転写活性化にはTFIIEが不要である。CUP1遺伝子の転写は、銅誘導性転写因子(Ace1)と熱ショック転写因子(Hsf1)により調節されている。 今回、artificial recruitment assay法およびクロマチン免疫沈殿法により、CUP1のTFIIE非依存的な転写に関与するタンパク質の検索を行った。その結果、Ace1は転写仲介因子のMediator複合体と相互作用し、TFIIE非依存的な転写を行うことを明らかにした。また、Hsf1はTaf(TBPと結合して仲介因子として機能する)と相互作用することが示唆された。したがって、転写調節領域にMediatorとTafが同時に結合した場合、TFIIEの機能が不十分であってもRNA合成が開始されるということが考えられる。これらの結果は、遺伝子の特異的転写制御の機構を明らかにする上で重要である。今後は、Hsf1とTafの相互作用、および、熱ショック(ストレス)による転写活性化能力の獲得機構について詳細に解析する必要がある。
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