研究概要 |
大腸菌転写終結因子Rhoは単一のサブユニットからなる環状6量体の構造を持ち,ATPの加水分解のエネルギーを利用しながら新生RNA鎖を鋳型DNAから解離させるヘリカーゼとしての機能を果たす.本研究では、Rhoが一次構造上F1-ATPaseと相同であることに着目し,両者の間の構造的・機能的関連をさらに掘り下げるべく解析を進めた. 我々はこれまでの研究により、Rho6量体は王冠部のRNA結合ドメインでRNA鎖の5'末端領域にまず結合し,ついで後続のRNA鎖を中央孔に通してATPaseドメインとの動的相互作用により手繰り寄せるという新しいモデルを提唱した.このRNA相互作用がRhoタンパク上のどの構造領域で起こり、それがATP加水分解過程と如何に共役しているかを理解するための最も重要な基盤として、x線結晶解析によりRhoの立体構造を決定する試みを三木邦夫博士グループ(京大理・化学)と共同して進めた.Rhoの結晶性が予想外に悪いために、解析は難航しており、現在の所、解像度約10Åまでの回折像しか求まっていない.引き続き、より完全な結晶を得るべく努力中である.そこで、補完的なアプローチとして、我々が先に求めたRhoの電顕再構成像と、既知のF1-ATPaseの立体構造とを拠り所として、コンピュータによるRhoの立体構造モデル化を行った.このモデルに、当グループおよび他グループにより同定されている多数のアミノ酸変異を当てはめて、それらの機能的・構造的影響を評価した.その結果、変異が同定された残基中でATPaseドメインから中央孔に突き出したPループ及びそれに隣接するQループ上に位置するアミノ酸群がRNAを受容するのに好適と思われる一つながりの領域を形成していることが予測された.このRNA接触面がATPase反応と共役して振幅することによりRNA鎖の移送がもたらされる可能性が示唆された.
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