研究概要 |
イントロンを含む前駆体tRNAのスプライシングは酵素的切断反応によって行なわれる。tRNAスプライシング・エンドヌクレアーゼは古細菌から高等植物まで広く分布し,触媒ドメインに高い相同性が観察されている。すでにアラビドプシスからエンドヌクレアーゼを構成すると推定されるサブユニット遺伝子(AtSen1,AtSen2)を単離して分子解析を行なっている。平成13年度ではこれら2種類の遺伝子を用いて,1)大腸菌の系を用いた融合蛋白質の発現誘導と精製条件の検討,及び2)AtSen1,AtSen2とこれらの変異遺伝子の構築とトランスジェニック植物の作出・解析を行なった。 1)大腸菌でのAtSen1とAtSen2蛋白質の発現誘導と精製条件の検討 大腸菌発現ベクターpET32aとpTrcHisAにAtSen1,AtSen2のOpen reading frameをin frameで組み込み,組換えベクターを構築した。これらを至適ホスト大腸菌に移し,蛋白質の誘導条件を主に主培養の時間に関して検討した。蛋白質の精製はヒスチジン・タグとの親和性を利用したニッケルイオン・カラムクロマトグラフィー法に従った。いずれのベクターを用いても予想される分子量の融合蛋白質を精製することができた。しかし,AtSen1,AtSen2のいずれも不溶性分画に回収され,尿素などの変成剤を用いて可溶化し,カラムに蛋白質を吸着後に再生作業を行なった。このために,精製した蛋白質が本来の活性を有しているの未知であり,in vitroでの翻訳系やバキュロウイルスを用いた発現実験を来年度行なう予定である。 2)トランスジェニック植物の作出と解析 AtSen1,AtSen2遺伝子産物の機能を明らかにするために,これらの変異遺伝子を構築した。酵素の触媒ドメインには保存された三つ組みアミノ酸残基(Tyr-His-Lys)が存在し,活性中心を構成する。よって,HisコドンをAlaコドンに改変し,アグロバクテリウムを介した形質転換法により遺伝子導入を行ない,形質転換アラビドプシスを作出した。植物体はいずれも著しい成長遅滞を示した。これらの植物体から全tRNAを抽出して,イントロンを含むメチオニンtRNAをプローブとして,ノーザン解析を行った結果,変異AtSen1を導入した植物でのみメチオニンtRNA前躯体の著しい蓄積が観察された。また,この植物組織にナンセンス・サプレッサー・メチオニンtRNAを導入してその活性を調べた所,野生型植物に比べて,低いサプレッサー活性が認められた。
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