植物において細胞質tRNA^<Try>とtRNA^<Met>をコードする核遺伝子のみがイントロンによって分断されている。植物核抽出液に基づく試験管内スプライシング系を用いた種々の実験から、植物においてはイントロンの切断に関与するtRNAスプライシング・エンドヌクレアーゼの基質特異性は酵母のものに比べて、はるかに厳密であることが分かっている。植物エンドヌクレアーゼの特性をより詳細に明らかにするために、アラビドプシスのcDNAライブラリーやゲノムプロジェクトの成果を元にして遺伝子の探索と同定を行ない、エンドヌクレアーゼの触媒サブユニットを構成すると推定される二種類の遺伝子(AtSen1とAtSen2)を起点として機能実験を行った。 形質転換アラビドプシスを用いた実験から、AtSen1の触媒三つ組残基に変異を導入した変異AtSen1を過剰発現させることで、植物細胞内に前駆体tRNAが蓄積することが観察された。また、アンバー・サプレッサーtRNAを介したpre-matureなアンバーコドンの抑制に基づいたtRNA機能発現系を独自に開発し、生体内でのtRNAスプライシングを調べた。アンバー・サプレッサーtRNA^<Met>(CUA)遺伝子を変異AtSen1株に導入して一過性の発現を調べた結果、この変異株ではtRNAスプライシングの効率の著しい低下が示唆された。これと平行して、無細胞転写翻訳系を用いてAtSen1とAtSen2蛋白質を合成・精製して、これらを試験管内スプライシング実験で調べた結果、AtSen1(またはAtSen2)、あるいはこれら二種の蛋白質が共存してもイントロンを含む植物前駆体tRNAの正確な切断を確認することはできなかった。このことは植物tRNAエンドヌクレアーゼも酵母のものと同様に触媒サブユニットの他に、これらと相互作用しうる未知蛋白質が存在することを暗示しており、今後これらの蛋白質の単離・同定が大きな課題と言える。引き続き植物材料を出発点として、蛋白質精製を通じた生化学的なアプローチ、及びに抗Sen1抗体(または抗Sen2抗体)を用いた免疫化学的なアプローチにより未知蛋白質の同定を行なう予定である。
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