研究概要 |
真核細胞の染色体はヒストンの化学修飾によりクロマチン構造の動的変動を生じ、特にアセチル化および脱アセチル化と遺伝子発現変化との密接な関連が以前より示唆されていた。現在までにヒトのヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)はこれまでに11種報告されており、更にこれらは細胞内で複数の蛋白質と複合体(Sin3-HDAC, NuRD-HDAC, SNRT-HDAC, N-CoR-HDAC等)を形成することも多数の研究者の貢献により明らかにされた。しかしながら、複数種存在するHDAC酵素複合体の機能解析並びに制御遺伝子群のネットワークの詳細な解明は未だ不十分である。一方、B細胞におけるイムノグロブリン産生は複雑な多段階制御を受け、ヒストンのアセチル化もその一翼を担うと示唆されていた。また、私共の研究室で独自にニワトリB細胞株DT40からHDAC2(chHDAC2)の欠失変異株を作製し、変異株でIgM発現が増加することを発表していた。この知見をもとに、本研究課題はニワトリ免疫グロブリン(IgM)遺伝子をモデルとして、HDACによるクロマチン構造変化を基盤とした転写制御機構を分子レベルで解明することを目的とし実施された。 本研究で得られた主な知見、成果を以下に要約する。 1)ニワトリ由来B細胞特異的転写コアクチベーター、chOBF-1をクローニングした。chOBF-1はそのパートナーであるアクチベーター、chOct-1と結合することを、並びにこの両者は協調してIgM-L鎖の転写を活性化することを明らかにした。この事により脊椎動物細胞ではIgM-L鎖の転写制御が高度に保存されている事が示唆された。 2)chOBF-1とchOct-1によるIgM-L鎖の転写活性化は、chHDAC2により完全に抑制される事を明らかにした。この抑制はchHDAC1やchHDAC3では生じなかった事からchHDAC2に特異的であることが示唆された。
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