1、DNAポリメラーゼ(ポル)β欠損マウスにおける神経発生異常の解析 ポルβ欠損マウスで得た興味深い視察は、神経細胞の発生時に起こる異常な細胞死である。この観察はDNAの2重鎖切断修復に関与するXRCC4やDNAリガーゼIV欠損マウスの性状と類似しており、発生期の神経細胞に内在的なDNA損傷が生じるが、これは何らかの修復機構よって修復されると予想される。そこで、ポルβ欠損マウス脳において発生する神経細胞内でどんなDNA損傷が起こるのか、どのように細胞死へ誘導されるのか、を解析した。そのため、ポルβ欠損マウスとDNA-PK変異をもつScidマウスと交配し、2重変異マウスを作成した。この2重変異マウスは、ポルβ欠損マウスに比べて早期に致死となり、ポルβ欠損マウスより多くの細胞死が認められた。一方ゲノム安定化に関与するp53遺伝子欠損マウスと交配を行って得た2重変異マウスは脳の細胞死が明らかに減少したが、生存の延長は認められなかった。このことから、ポルβが脳におけるDNA切断の修復に重要な役割を果たしていると考えられる。 2、ポルβ欠損マウスのゲノム安定性の解析 ポルβはDNA修復酵素なので、欠損は遺伝子変異やゲノムの不安定性に導くと予想される。また、ヒト癌組織でポルβ遺伝子の変異がみられ、ポルβの発ガンへの関与も示唆されている。個体におけるこれらの問題点を明らかにするため、ポルβ欠損マウスと遺伝毒性の検出用に作製されたHITECマウスと交配を行い、得られた交配マウスの突然変異に及ぼすポルβ欠損の効果を調べた。ポルβ欠損マウスとのHITEC交配マウスの各組織における染色体DNAの突然変異を調べた結果、脳においてポルβ欠損マウスは野生型マウスに比べ、低頻度で突然変異を生じることが明らかになった。さらに、得られた突然変異体の塩基配列の決定を行い、ポルβ欠損に関わらず欠失が多く認められた。この結果は、Polβが突然変異の生成に関与していることを示唆している。
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