本研究における検討課題は次の2つである。 [課題1]プロモーター領域のクロマチン(ヌクレオソーム)構造の解析 [課題2]プロモーター内または近傍に存在するベントDNAの三次元構造解析 [1]については、以下の3つのプロモーターを用いて括弧内に示す解析を行った。 (1)負の超らせんを擬態した176bpのベントDNA(以下T20とよぶ)を上流にもつtkプロモーター(indirect endlabeling法によるヌクレオソームの並進位相の解析)。 (2)マウスpgk-1プロモーター(単離核のMNase消化によるヌクレオソームラダーの解析)。 (3)ヒトhsp70Bプロモーター(ヌクレオソームの並進位相の解析とDNaseI消化による回転位相の解析)。 (1)におけるT20は、我々が人工的に作製した構造であり、tkプロモーターを約100倍も活性化することができる。今回、この系においてもプロモーター領域にヌクレオソームが形成されることと、強力なプロモーターとして知られるpgk-1プロモーター上にもヌクレオソームが形成されることが明らかになった。一方、hsp70Bプロモーターでは従来の報告どおり当該領域にヌクレオソームは形成されないことが明らかになった。また、予備的ではあるが、hsp70Bプロモーターの上流にT20を導入すると、"promoter-proximal pausing"が少し解除されることと、この現象に下流域のクロマチン構造が関与している可能性が示唆された。 [2]については、EPD(eukaryotic promoter database)に登録されているヒトのクラスIIプロモーターのすべて(276種)を対象として、ソフトウェアTrif ver.1.01を用いたコンピュータ解析を行った。その結果、大部分が正または負の超らせんを擬態したベントDNA構造を内部または近傍にもつことが予測された。
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