本研究では、まず、一過的に導入されたレポーター上に細胞核内で形成されるクロマチン構造を解析した。レポーターには、負の超らせんを擬態した176bpの人工ベントDNA(T20)をもつ単純ヘルペスウィルスtkプロモーター、T20をもつヒトhsp70Bプロモーター、ならびに左方向に緩やかにねじれた構造をとったマウスpgk-1プロモーターを用いた。T20は、我々が構築したベントDNAであり、細胞内でtkプロモーターを約100倍も活性化できる。今回、この系においてもプロモーター領域にヌクレオソームが形成されることと、強力なプロモーターとして知られるpgk-1プロモーター上にもヌクレオソームが形成されることが明らかになった。また、予備的ではあるが、hap70Bプロモーターの上流にT20を導入すると、"promoter-proximal pausing"が少し解除されることと、この現象に下流域のクロマチン構造が関与している可能性が示唆された。次に、レポーターをゲノムに1コピーだけ組み込んだ各種のHeLa細胞株を樹立し、解析を行った。その結果、T20をプロモーターの上流にもつ細胞株の場合、ヘテロクロマチン領域内でもプロモーターが活性化していることが明らかになった。 さらに我々は、ヒトのクラスIIプロモーターの中から、177のプロモーターを選定してコンピュータによる高次構造モデリングを行った。その結果、TATAボックスを含む領域には、正または負の超らせんを擬態したベントDMが高頻度に存在するが、転写開始点付近のらせん軸は多くの場合直線的であることが解明された。 以上の結果から、負の超らせんを擬態したベントDNAは、積極的にヌクレオソームを形成することで転写に寄与していることが示唆された。正の超らせんを擬態したベントDNAの場合、ヌクレオソームの形成を阻害して転写に寄与していると予想される。
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