研究概要 |
我々はこれまでに細胞膜ドメインにおけるI型およびII型IFN受容体間での新たなシグナルクロストーク機構を解明してきた.今回,IFNAR1分子を介した弱いIFN-α/βシグナルによる他のサイトカインシグナル伝達系への影響を検討したところ、IFNAR1遺伝子欠損細胞においてgp130を受容体構成分子とするインターロイキン-6(IL-6)によるStat1の活性化が低下していることが明らかとなった。更にIFNAR1遺伝子欠損マウスでは、IL-6による応答性が減弱していることも示された。またIFNAR1分子と同様に、カベオラドメインにgp130分子が局在することが判明した。以上の結果より,IFNやIL-6の受容体サブユニットが細胞膜ドメインに集積しており,おそらく"receptosome"といった集合体が細胞膜ドメインに形成されていることが示唆された.即ち,細胞膜レベルでの,これらサイトカインシグナル伝達のクロストークの場が,細胞膜ドメインであることが予想された.一方,既に見出していた"IFN-α/β受容体欠損胎仔線維芽細胞(MEF)がトランスフォーメーションをきたす"という現象の機序の解明のため、Stat1やIFN-β遺伝子欠損MEFを用いて検討した結果,IFN-β遺伝子欠損MEFでは,IFN-α/β受容体欠損MEFと同様にトランスフォーメーションを起こしたが,一方,Stat1遺伝子欠損MEFではトランスフォーメーションを起こさなかった.この結果より,構成的に発現している極微量なI型IFNによるIFN-α/β受容体を介した"weak signal"によるがん化の抑制機構が存在している可能性が示された.更にこのがん化抑制シグナルはStat1非依存性であることも明らかとなった.活性型Rasを発現させた,これらのIFNAR1,Stat1または,IFN-β遺伝子欠損MEF細胞を用いてヌードマウスでの造腫瘍性を検討した結果においても上記と同様の結果が得られた.以上の結果より,この微量なIFN-α/βによる"弱いシグナル"は我々が"revving-up model"によって独自に示したように、生体防御系でのサイトカインによる細胞応答性に深く関わっていると同時に,生体のtumor surveillanceシステムにおける役割が予想された.
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