チロシンキナーゼ(PTK)は細胞の高次機能に必須の情報伝達分子であり、その主要な役割はSH2やPTBドメインを介した蛋白質間のリン酸化チロシン依存的な会合の制御にある。代表者らが同定したDok及びその類縁蛋白質(Dok-2、Dok-3)は様々な情報伝達系に関与するマルチアダプター分子であり、チロシンリン酸化されることでSH2ドメインを有するシグナル分子を情報伝達系にリクルートする。今年度の本研究においては、ノックアウトマウスを利用した解析系を中心に、これらDokファミリー蛋白質の生理機能と作用機序に関する解析を計画した。 1.Dok・Dok-2二重欠損マウスは、5ヶ月齢以降、高頻度に脾臓の腫脹を呈するようになり、腫脹した脾臓においては、白脾髄の過形成と赤脾髄における髄外造血が認められた。また、そのように腫脹した脾臓においては穎粒球様細胞の過増殖が確認された。現在、この過増殖細胞の性状を詳細に検討すると共に、Dok、Dok-2欠損の骨髄球系細胞の分化や増殖欄する影響を検討している。 2.血液系細胞に高発現しているDokファミリー分子全般の生理的な機能を知るために、Dok-3欠損マウスの樹立を目指し、その遺伝子構造の検討を開始した。 3.Dok、Dok-2が慢性骨髄性白血病(CML)患者の血液幹細胞中でBcr-Ablによりチロシンリン酸化されていることを踏まえ、CMLモデルマウス(bcr-ablトランスジェニックマウス)とDok、Dok-2欠損マウスとの交配を進めた。既に、トランスジーンを有するDok、Dok-2欠損マウス(単独、及び重欠損)が生後数週齢に達しており、CML様病態へのDok、Dok-2欠損の影響に関する解析に間もなく着手する。 4.Dokが細胞運動に関与すると言う報告を踏まえ、Dok欠損マウス由来の胎児繊維芽細胞の運動能を検討したが、予備的な実験だけでは顕著な異常は見いだせなかった。
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