チロシンキナーゼ(PTK)は細胞の高次機能に必須の情報伝達分子であり、その役割はSH2やPTBドメインを介した蛋白質間のリン酸化チロシン依存的な会合を制御することにある。申請者らが単離、同定したDokとそのファミリー蛋白質(Dok-2/-3/-4/-5)は、情報伝達の様々な局面でチロシンリン酸化され、SH2を持つシグナル分子をリクルートするドッキング蛋白質である。申請者は、多様なPTKの共通基質であるDokファミリー蛋白質について、その生理機能と癌化における機能及び作用機序の解明を目的としてDok、Dok-2二重欠損マウスの血液学的、病理学的な解析を行った。その結果、二重欠損マウスにおいて、末梢血では顆粒球、単球の増加が、骨髄、脾臓ではそれらの前駆細胞の増加が認められた。次に、その異常造血の分子機構について知る為に造血幹細胞に対する二重欠損の影響を検討したところ、顆粒球・単球系幹細胞の異常な増加と、その形成に重要なサイトカインに対する増殖応答の亢進を認めた。また、腎臓においては免疫グロブリンの沈着を伴う糸球体腎炎が認められた。さらに、bcr-ab1トランスジーンを持つ慢性骨髄性白血病モデルマウスにdok、dok-2の遺伝子欠損を導入したところ、その多くはリンパ腫を発症していた。以上の結果から、Dok及びDok-2が多様な血液細胞の増殖、機能、癌化を負に制御していることが明らかになった。一方、Dokファミリー全体の作用機構について知る為に、各分子にチロシンリン酸化依存的に会合する蛋白質を質量分析法によって同定したところ、rasGAPやNck等の既知の会合蛋白質の他に数種類の新規会合分子を見い出した。また、新規dokファミリーと考えられる全長cDNAの単離にも成功している。 これらの知見を踏まえ、現在、Dokファミリー分子の生体高次機能における役割と作用機序の解析を進めている。
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