本研究では、受精のシグナルがMAPキナーゼ情報伝達系を経由してDNA複製開始につながる全経路を明らかにしようとした。そのストラテジーとしては情報のながれる上流からと下流からの両方向からこれらの接点にあたるところの分子の探索を行った。第一には情報伝達系からのシグナルの流れを下り、受精の信号を細胞周期の制御機構(この場合DNA複製の開始)を操作するためのシグナル転換装置(これをとよぶ)に迫ろうとするもので、第二には、これとは逆にDNA複製装置のについて、受精までの間にどのような状態でDNA複製開始が停止しているかを明らかとし、受精のシグナルが入ったあとに複製装置が起動するために必要な分子(この分子に制御に情報伝達系が連結されている可能性が高い)を同定しようとした。 その結果、第一の方法ではMAPキナーゼ情報伝達の下流にはp90Rskという蛋白質キナーゼが関与していることが明らかになり、第二のアプローチからは情報伝達のつながっているDNA複製装置の構成要素はCdc45という2重鎖DNAの巻き戻しとDNAポリメラーゼαの複製起点への導入に必要とされる蛋白質であるとことが明らかとなった。これらの結果によりインターフェイス分子の同定には至らなかったものの、DNA複製を制御するこれまでにしられていない新規のチェックポイントの解析の途を開いたものと考えられ、さらに、Cdc45とp90Rskのあいだをつめることにより、もう一歩で、いまだどの生物でも知られていない受精のシグナルがMAPキナーゼ情報伝達系を経由しDNA複製開始につながる全経路を解明できるところまで到達できた。
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