脊推動物の成熟未受精卵は減数第二分裂中期に停止して受精を待つ。この場合、神経周期停止因子であるc-MosはMAPKを介し細胞周期をM期で停止させている。しかし、受精前の細胞周期停止の時期は、脊椎動物でもイヌでは減数第一分裂前期であり、昆虫では第一分裂中期、ウニでは減数分裂完了後のG1期というように、動物の間で異なる。申請者らは減数分裂を完了したG1期で細胞周期を停止するヒトデ卵を材料として、細胞周期を停止させる因子の実体を解明しようと試みた。その結果、意外なことにヒトデにおいても脊椎動物と同様にKが細胞周期のG1停止をもたらすことがわかった。 最近、Mosの下流でMAPKはp90RSKと複合体を形成し、情報伝達のための一つの単位(モジュール)を形成していることが判明してきた。このモジュールがヒトデにおいてはG1期での停止に、脊椎動物ではM期での停止に連結されており、情報がそれぞれDNA複製装置と分裂後期の開始の制御の異なる実行因子に流れていると予測される。このようなモジュールの繋ぎ換えは進化の中で何度も起こり、その結果、現在の真核生物に見られるようにMAPKカスケードは種々の情報を媒介するに至ったと予想される。本研究はこのモジュールと細胞周期の間にあるインターフェイスに当たる分子を同定することである。 脊椎動物ではMosは、受精の刺激によりカルシウム-CaMKIIという経路で分解に至るが、本研究の結果、ヒトデの場合には受精に刺激によりカルシウムが卵細胞室内に放出される点とMosが分解する点は同じであるが、ヒトデのMosはCaMKIIの阻害によっても分解を免れない事がわかった。この結果はカルシウムシグナル伝達系とMAPKシグナル伝達系という非常によく保存された情報伝達系同士の連結が、非常にフレキシブルで動物種により多様である可能性が出てきた。
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