平成13年度において、我々は、低分子G蛋白質Rap1の機能に関わるエフェクター分子を同定するために、ヒト白血球cDNAライブラリーから酵母Two-hybrid法を用いたスクリーニングによりRap1と相互作用すると考えられる下流標的分子p30をクローニングした。p30は分子量30Kdのタンパクで、その構造の特徴は分子中央にRas/Rap結合ドメイン(RBD)を持っていた。また、p30タンパクの発現は血球系細胞株に広く認められた。Rap1とp30の会合についてはin vitro系においてGTP依存的に会合した。次にp30が細胞の接着性や細胞遊走能を促進するかどうかを検定する為、ヒトLFA-1を再構築したプロB細胞株BAF細胞(LFA-1/BAF)にp30を過剰に発現させた細胞を作製し、精製ICAM-1またはICAMFcキメラをコートしたディシュ上で細胞運動性、接着性を解析した。活性型Rap1を導入したLFA-1/BAFにp30を発現させると、単位時間当たりの移動距離が親株と比べて顕著に増加した。また、p30のみを発現させたLFA-1/BAFをRap1の活性化を引き起こすSDF-1で刺激した時にも親株と比べてLFA-1依存性の細胞遊走の上昇が観察された。さらにp30のRBDに変異を入れ、Rap1と会合しないp30の変異体を発現させると細胞遊走の上昇は起きなかった。以上の結果より、抗原受容体やケモカイン受容体刺激時にp30がRap1依存的に形態、運動性、LFA-1/ICAM-1結合性等の変化に関係していることを見い出した。 平成14年度においてさらに、p30の分子内の欠失・アミノ酸置換変異体を作製、並びに細胞に導入し、細胞の形態、運動性、接着性、細胞内局在をパラメーターとした解析を行った。それにより、p30の機能発現に重要な領域を特定、loss of functionのphenotypeを示す優勢抑制型変異体も見い出した。また、p30に対する特異的モノクローナル抗体を作製し、細胞運動性、接着性が変化している時のp30の細胞内局在の変化や他の機能分子との関係を抗体染色法により解析した。その結果、p30は細胞骨格系や細胞内輸送系との共局在が示され、これらに関連する機能分子との相互作用によりインテグリン接着性や細胞運動性を制御していることが予想された。
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