アデノウイルスベクターを用いた優性抑制変異体の発現によって、nPKCηの活性を上皮培養細胞内で特異的に抑制すると、カルシウムスイッチ後の上皮接着構造形成に以下のような異常な現象が生じることが明らかとなった。これらはすべて、aPKCの活性を抑制した場合に見られる現象とは異なることから、aPKCと独立にnPKChが関与している接着シグナル系の実体を示唆していると考え得る。1)nPKCηの活性を抑制した場合には、aPKCの活性を抑制した場合に見られるタイトジャンクション(TJ)形成阻害のみならず、E-cadherinをはじめとするアドヘレンスジャンクション(AJ)の形成も強く阻害される。2)また、細胞接着の機械的強度が大きく弱まる。3)さらに、F-actinのcorticalbundleの形成も激しく阻害され、多くの場F-actinの凝集体が生ずる。以上の結果は、nPKCηが、aPKCよりも上流、E-cadherinの直下で、F-actinのreorganization、細胞間接着の形成というステップに近いところで働いていることを示唆していた。さらにこうした知見は、1)TPA刺激によるTJ形成は、nPKCη、aPKCの優性抑制変異体でともに抑制される。2)低カルシウム条件でもTPAで刺激すると、伸展し接触を始めた細胞間にE-cadherinが初期に一時的に集積するというその後に得られた知見とも一致した。残念ながら、本研究期間中に、このnPKCηがどのような分子機構でこうした機能を果たしているのかについては十分迫りきれなかった。しかし、以上の結果は、「nPKCηがaPKCの上流に位置し、E-cadherinの集積過程に働くことを介して細胞接着構造形成の初期過程に寄与している」可能性を強く示唆しており、上皮接着構造形成に関わるシグナル系の今後の解析に重要な手がかりを与える成果であると考えており、早急に論文化し発表する予定である。 一方、本研究に密接に関連して進めた、「上皮細胞接着構造、極性形成におけるaPKCの役割に関する研究」は大きく進み、いくつかの具体的な成果を上げることができた。
|