研究概要 |
これまでの研究において、いくつかのsPLA2分子種(IIA,V型)による細胞からのアラキドン酸遊離には、細胞活性化に伴う細胞膜マイクロドメイン中のリン脂質の修飾(membrane perturbation)が必要であることを見い出した。本年度は、新規sPLA2分子群について網羅的な解析を実施し、どの分子種が細胞からのアラキドン酸の切り出しに膜修飾を必要とするかについて追跡した。その結果、IIA,V型に加え、同じsPLA2亜群(II型サブファミリー)に属するIID,IIE,IIF型sPLA2がその細胞機能発現に細胞活性化に伴う膜修飾を必要とすること、一方、X型とIII型(細胞種によってはV型)sPLA2、は膜修飾を必要とせず、未刺激状態にある細胞の膜からアラキドン酸を遊離できることを見い出した。後者のsPLA2はいずれも形質膜二重層の外層に豊富なホスファチジルコリン(PC)に対する親和性が強いのに対し、前者はPCに対する親和性が低く、形質膜二重層の内側(細胞質側)に配向している酸性リン脂質(PE,PS)をよい基質とした。このことから、II型サブファミリーに属するsPLA2は、脂質膜の細胞質側に配向しているリン脂質が細胞活性化に伴って外層に露出したドメインに作用している可能性が考えられた。また、II型サブファミリーsPLA2による細胞からのアラキドン酸遊離は脂溶性の抗酸化剤によって抑制され、逆に、脂質酸化酵素である12/15-リポキシゲナーゼによって促進されたことから、膜脂質の酸化反応がII型サブファミリーsPLA2の作用する場を提供しているものと考えられた。一方、膜修飾を必要としないsPLA2の一群は、PCに富む形質膜外層に潜り込み、脂肪酸を遊離できるものと考えている。
|