p105タンパク質は、中心体に集積する新規タンパク質として、我々がこれまでに同定したものである。p105を細胞に発現すると細胞質に粒子を形成するが、ここには小胞輸送に関与するβ-COPが局在することから、この粒子は何らかの膜オルガネラであろうと予想された。本研究期間中に、この粒子がβ-COPを含む膜以外に、mRNA、リボソーム、翻訳因子などをも含む高次複合体であることを明らかにした。この粒子は、アクチンおよび微小管依存的に細胞膜直下に輸送された。また、p105タンパク質の発現が脳神経細胞と生殖細胞に特異的であることも明らかにした。神経細胞においてはp105を含む粒子は微小管依存的に樹状突起に局在した。さらにこの粒子は、FMRPを含んでいることがわかった。FMRPは精神遅滞症候群の原因遺伝子産物で、特定のmRNAに結合して翻訳抑制をおこなうことによって、シナプス形成を制御する因子である。 以上のような特徴を持った粒子として、神経樹状突起のmRNA輸送体が報告されている。このmRNA輸送体は、mRNA、リボソーム、翻訳因子、膜などから成る複合体であり、細胞骨格依存的に樹状突起内を輸送されることが明らかになっている。これらのmRNAがシナプスの入力依存的に局所的にタンパク質に翻訳されることによって、ひとつの細胞内に多数存在するシナプスのうち、特定のシナプスのみを変化させることができると考えられている。しかしながら、このmRNA輸送体の分子的実体はほとんどわかっていない。 以上の知見から、p105はタンパク質翻訳制御機構を装備したmRNA輸送複合体の、全く新しい構成要素であると考えられる。今後この複合体を構成する他の要素を同定し、さらにmRNA輸送メカニズムや局所的タンパク質翻訳制御メカニズムを調べていくことは大変興味深いと考えられる。
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